一生役に立つ!資産運用の始め方

豚の貯金箱

この記事は以下のような人に向けて書いています。

  • 資産運用を始めたいが、考え方、やり方が分からない
  • 資産運用について色々調べたが、結局なにをすればいいか分からない
  • 投資をしているが、今のやり方でいいかどうか不安
  • 自分なりにやっているが、コロコロ方針が変わる

投資を知らない人がこの記事を読み終えた後、自分の方針に納得して投資できるようになることを目指します。

資産運用や株式投資について様々な書籍、ブログ、動画を見ました。しかし、お金が絡むからか投資界隈は誤った情報が多いです。特に、モダンなやり方を網羅的に解説しているものが見つかりませんでした。近年の投資理論を踏まえて私たち一般人は結局どういう行動を取ればいいか、なぜそれが良いと言えるのかを解説したいと思います。

私は投資の世界の人間ではなくITエンジニアですから、投資に関して経験豊富なわけではありませんが、この記事は統計的な分析と “現代ポートフォリオ理論” という理論に基づいて書いています。

長い内容になると思いますが、一緒に頑張りましょう。

記事に出てくるグラフのソースコードはこちら

0. 結論

結論だけ最初に載せます。なぜこうなるのかが以下の章にずらずらと書かれています。

まず、以下の手順でインデックスファンドを購入するための準備をします。

  1. ポートフォリオを決める
    インデックスファンドと現金の比率を決める (3章)
  2. インデックスファンドを1つ決める
    SBI証券や楽天証券などから、米国株が含まれているインデックスファンドを決める (4章)
  3. 証券会社の口座を開く

準備が済んだら、以下の2点をひたすら続けます。

  1. 毎月給与が入ったらインデックスファンドを購入する (5章の内容に従いリバランスしながら購入する)
  2. 1年に1度ポートフォリオを見直し、リバランスが必要なら行う

1. なぜ資産運用をするのか

資産運用の目的は、最終的にはその人の生き方の問題になりますが、ここでは一般的な状況を考えましょう。運用する目的は、今よりお金 (資産) を増やすことです。お金が必要な理由はたくさん考えられますが、自由な生活を送るため、老後の資金、子供の教育費などでしょう。

運用する、というのは投資をするということです。お金を普通預金に入れていても増えませんから、価値が上がりそうな資産に投資することで、将来にかけて資産を増やしていきます。

投資は損をする可能性があります。損をするくらいなら、預金にお金を入れておけばいいと考えるかもしれません。しかし、インフレによって物価が上昇していけば銀行の預金も価値が目減りしていきます。また、多くの人にとっては給与所得だけで教育費や老後の資金、ゆとりある生活を揃えることは難しいものです。

長期間 (20年くらい) 運用した場合に投資で損をする確率はほとんどないことが分かっています。変なことをしないかぎり、投資はほぼ確実に資産を増やす手段と言えます。投資は自分が働く必要がないのも魅力ですね。だから多くの人がやるべきなのです。

2. どんな資産を持てばいいのか

一般人が資産運用をする上で保有すると考えられる資産には以下のようなものがあります。

  • 現金 (実際のお札だけでなく銀行にある預金も指す)
  • 株式 (株式会社が資金を出資した人に対して発行する証券)
  • 債券 (資金を借り入れたときに発行される証券で、例えば国の債券は国債という)
  • 貴金属 (金、銀、プラチナなど)
  • 不動産

忘れがちなのが現金です。現金も資産であり、資産運用に必ず含まれます。

その資産が投資する先として良いかどうかはどのようにして判断すればいいのでしょうか。様々な指標がありますが、最も大事な指標が「リターン」と「リスク」です。

リターンとは、利益のことで、ある期間にその資産の価値がどれだけ上昇したかを表します。「1年でリターンが10%」と言った場合、1年間で価格が10%上昇したことを意味します。途中で価格がいくら落ちても、最終的に 10% 上昇したのなら年間リターンは 10% と言えます。

下の図は 1年 で価格が 100 円から 110 円に上がり、年間のリターンが 10% である資産の値動きの例を示しています。当然ですがリターンは大きいほど良いです。

図1. 年間リターンが10%である資産の値動きの例

リスクは、リターンと比べると理解しにくいかもしれません。投資の文脈におけるリスクとは、価格がどれだけ動きやすいかを表現しています。リスクが大きい資産とは、値動きの幅が大きく、価格が急に上がったり下がったりする資産を指します。(インフレによって物の値段が上がり、相対的に資産価値が減るインフレリスクというリスクなどもありますが、ここでは単純に価格の変動のみをリスクとします。)

下の図は、リスクが小さい資産と大きい資産の比較を表しています。どちらも年間リターンは同じ 10% ですが、 Asset 2 は数か月で資産額が大きく下がる可能性があることが分かります。価格変動が大きすぎる資産は、気が気でないので夜眠れなくなります(本当に)。リスクは小さいほうが良い指標です。

図2. リスクの小さい資産と大きい資産の例

最初に記した5つの資産におけるリターンとリスクを見てみましょう。実在する金融商品から代表的なものを用いて計算しました。例外もあることは覚えておいてください。

図3. 各資産タイプにおける年間リターンの分布 (2007年 – 2022年)
資産1年間の平均リターン
Cash (現金)0.0 %
Bond (債券)3.8 %
Stock (株式)12.3 %
Gold (貴金属)8.1 %
REIT (不動産)9.4 %

参照した銘柄は以下の通り
Cash: 金利0%, Bond: BND, Stock: VTI, Gold: GLD, REIT: VTQ

図3. は 2006 年から 2021 年の15年間における、年間リターンの分布を表しています。2006年からなので、リーマンショック (2008年) とコロナショック (2020年) を含んでいます。緑色のマークが平均リターンを表しており、数値は右の表に記載されています。リスクの高さは、箱ひげ図の上下の幅で比較することができます。例えば REIT はリスクが大きいですが、 Bond は非常に小さいことが分かりますね。

  • Cash (現金)
    Cash は 0% の高さに線が引かれているだけです。普通預金にも金利がありますが、ほとんど0に等しいので現金は価格が変わらないと見なし、リターンは 0% としました 。そのため箱ひげ図にはなっていませんが、他と比較するために載せてあります。
  • Bond (債券)
    リスクが小さいですが、リターンも小さいです。一般的に債券は株式よりローリスク、ローリターンになります。
  • Stock (株式)
    平均リターンが最も高いです。また、観測したデータの 75% 以上が、プラス ( > 0% ) のリターンです。
  • Gold (金)
    金は価格が安定しているイメージでしたが、思ったより箱が縦に長く、価格の変動が株式並みに大きいことが分かります。
  • REIT (不動産)
    株式よりリターンが小さい上に、箱ひげ図の縦幅が大きくリスクは高いことが分かります。

実際には、資産同士の相関や、資産特有の性質 (配当金の有無、税制度など) を考慮することも大事ですが、上で示した統計を覆すことはないと考えられますし、話がややこしくなるので省略しています。

リターンとリスクの観点から、保有すべき資産は株式です。Bond や Gold, REIT は持たないほうがいいとは言えませんが、メインにする動機はありません (少なくともそういう運用は見たことがない)。

  • 資産運用をする上で持つべき資産は株式

3. ポートフォリオを決める

株式を持てばいいことは分かりました。では株式のリスクは、そのまま受け入れるしかないのでしょうか。

そんなことはありません。株式に現金を混ぜることで、リスクとリターンを調整することができます。一般的に、株式はリスクがある資産なので「リスク資産」、現金は価格変動がないので「無リスク資産」と呼ばれます。

図4. 異なる株式と現金の比率におけるリターンの分布

上の図は、所有する現金と株式の価格の比率を変えたときに、リターンがどうなるかを示しています。例えば、累計投資金額が1000万円の場合は、以下のような具合で資産を持つことを意味しています。

  • Stock 0% = 現金 1000 万円、株式 0 円
  • Stock 50% = 現金 500 万円、株式 500 万円
  • Stock 80% = 現金 200 万円、株式 800 万円
  • Stock 100% = 現金 0 円、株式 1000 万円

上記のような、どのような資産をどれくらいの比率で持っているか、という投資金額の内訳を「ポートフォリオ」と言います。例えば Stock 80% とは、現金 200 万円、株式 800 万円 のポートフォリオを表しています。

上の図を見ると、Stock 0% は現金のみのポートフォリオなのでリスクがありませんがリターンもないことが分かります。Stock 50%, 80%, 100% と株式の比率を大きくすると、(図の右側に行くと ) 平均リターンとリスクが上がります。

大事なことは、株式の比率が何%のときにどれくらいのリターンとリスクになるか、ではなくリスク資産 (株式) と無リスク資産 (現金) の比率を調整することでポートフォリオのリターンとリスクを調整できる、という考え方です。株式だけ持つのはリスクが高いので、現金を混ぜてポートフォリオ全体のリスクを調節することが重要です。

株式比率の調節に際して、リターンを高めるとリスクも高くなることを覚えておきましょう。リスクは小さいままリターンだけ大きくすることは基本的にできません。もしそのような美味しく儲かる資産が存在したら、多くの人が購入し結果的にリスクとリターンが釣り合うまで値段が上がるはずです。

では、どのようなポートフォリオが良いのでしょう (株式と現金の比率は何 : 何が良いのでしょう) ? 6 : 4 でしょうか、3 : 7 でしょうか。これには正解がありませんが、自分がどれくらいのリスクを許容できるか、で判断することが一般的です。ポートフォリオの価値が最大でどれくらい減少する可能性があるかを想定し、自分や家族が精神的、経済的に耐えられるかを考えます。米国株式の1950年から2021年の年間リターンを見ると、最低リターンは2008年の -38.49% です。このことから、株式は最低で年間 -50% のリターン、つまり半分の価値になる可能性があることを想定しておけば十分だと思います。投資金額 1000万円 として、株式の価格が半分になったとき、各ポートフォリオがどれくらい被害を受けるかは以下のようになります。

株式 : 現金暴落前暴落後損益
10 : 0 1000万円 (1000万円 + 0円)500万円 (500万円 + 0円)– 500万円
8 : 21000万円 (800万円 + 200万円)600万円 (400万円 + 200万円)– 400万円
5 : 51000万円 (500万円 + 500万円)750万円 (250万円 + 500万円)– 250万円

当然ですが、株式の比率を下げれば損失は小さくなりますね。ただし、後ほど説明しますが長期で運用を行えば、途中で暴落が来たとしても高い確率でプラスのリターンになります。つまり暴落してポートフォリオの価値が下がっても、最終的には元本より上がるので上記の表のような現象は一時的なものだという考えが正しいと思います。とはいえ資産価値が大きく下がると人間誰しも焦りますし、自分が焦らなくても家族が不安がりますから、事前に想定してポートフォリオを決めます。

しかしいきなり決めろと言われても、普通はどれくらいがいいのか分かるわけがありません。よくある指標は、株式の比率を [100 – 自分の年齢] にする、というものです。20歳なら株式80%、 40歳なら株式60%です。若いときは資産価値が減ったとしても、これから長く働くので毎月安定した給与 (現金) が入ることが想定されるのでリスクを取ってリターンを高めます。逆に高齢の場合は、給与に期待できないので株式の比率を小さくしてリスクを抑えるわけです。

  • ポートフォリオはリスク資産 (株式) と無リスク資産 (現金) の2種類
  • リスク資産と無リスク資産の比率を決めればポートフォリオが確定する

4. リスク資産として何を買えばいいのか

「OK, 株式と現金を持つことは分かったぞ。さっさと具体的に何を買うべきか教えてくれ。」

結論から言うと、リスク資産はインデックスファンドを持ちましょう。なぜそうなるのかを以下に書いていきます。

では、保有したい株を考えてみましょう。

例えば、Apple 社の iPhone や MacBook は世界的に売れているから、良さそう!と判断し Apple の株を買うとしましょう。しかし Apple が不調になったら、あなたの資産額も落ちるのでいわば運命共同体です。じゃあ Google も良さそうなので買いましょう。しかし Apple と Google が不調になったらダメ。じゃあ Amazon も買おう。しかし3社が不調になったらダメか。じゃあ・・・

はい、こう考えると永遠に持ちたい株の種類が増えていきますね。実はこの思考は正解で、1社よりも10社、10社よりも100社の株を持った方が、リスクが小さくなり安定したリターンが出ます。これは、各企業の株価は全く同じようには動かないので、複数の企業の株を持つことで様々な経済状況に対する耐性が生まれるからです。逆に、もし株の値動きが同じだったら何種類持っても意味はありません。

図5. 分散投資の効果
(バートン・マルキール. ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第12版> 株式投資の不滅の真理 日本経済新聞出版社)

上の図は、銘柄数を増やしたときにポートフォリオのリスクがどうなるかを示した図です。銘柄数を増やすことでどんどんリスクは小さくなっていき、最終的に総リスクの 60% 以上は低減させることができると分かります。分散させずに集中投資をするという行為は、イマドキではありません。

しかし、数百銘柄を個人で管理することは現実的ではありませんね。そんなときのために、投資信託という金融商品があります。投資信託にお金を預ければ、私たち個人の代わりにプロがまとめて株式を買ってくれます。例えるならいろんな味の入ったお菓子の詰め合わせだと思ってください。

世の中にはたくさんの投資信託がありますが、十分に分散投資されている、優れた投資信託としてインデックスファンドというものがあります。ではインデックスとはどういう意味でしょうか。

インデックスとは、市場の値動きを示す指数であり、市場を構成する企業の株価の平均です。インデックスが何たるかを知るには、具体的な例を出した方が分かりやすいでしょう。

例えば、世の中には以下のようなインデックスがあります。

  • TOPIX (トピックス)
    • 東証一部上場全銘柄の時価総額をもとに算出
  • S&P500
    • アメリカの代表的な500銘柄の時価総額をもとに算出
  • MSCIワールドインデックス
    • 日本を含む23の先進国にある上場企業約1500社の時価総額をもとに算出

TOPIXを見ることで、投資家は日本企業の株価が全体として上がっているのか、下がっているのかが分かります。インデックスは経済の動向をつかむために用いられる数値ということです。

インデックスの多くは単純な平均ではなく、時価総額加重平均を計算しています。時価総額 (株価 × 株式数) が大きい企業はより大きなウェイトを占め、時価総額が小さい企業は小さな割合しか計算に反映されません。

図6. MSCI World Index (USD) [https://www.msci.com/documents/10199/178e6643-6ae6-47b9-82be-e1fc565ededb]

上の図は、MSCI ワールドインデックスに含まれる上位10銘柄と、その割合を示しています。世界で最も時価総額の高い Apple は 4.89% のウェイトを占めています。その後はマイクロソフトが 3.76%、アマゾンが 2.31% ・・・と全部で約 1500 社分あります。(悲しいかな、TOP10に日本企業はありません。)

インデックスファンドとは、インデックスに連動した運用を目指す投資信託のことです。「MSCIワールドインデックス」に連動するインデックスファンドを買うことは、「MSCIワールドインデックス」の構成比率通りに、1500種類の銘柄をまとめて買っていることになるのです。世界中の有名なお菓子が入ったお菓子詰め合わせパックを買っているわけですね。

現在では株式売買のうち 80% 以上の取引が資産運用会社などのプロの機関投資家によって行われているようです。彼らは経験や知識、情報量が (当たり前だけど) 個人とは桁違いに多いプロ集団です。インデックスは彼らの手によって上下するので、インデックスファンドを買うことはプロ集団の平均点を取ることに等しいとされています。

インデックスファンドと対極をなすファンドに、アクティブファンドがあります。アクティブファンドは、インデックスとは異なる構成の株を保有し、インデックス (平均点) よりも好成績を出すことを目的にしています。インデックスの中から成長性の高い株を見つけ、それらだけで構成すれば理論的にはインデックスを超える成績を出すでしょう。しかし、実際のところ過去15年間、アクティブファンドの90%はインデックスファンドより成績が悪いようです*1。アクティブファンドが良い成績を出すと、それはすなわちインデックス (平均点) を引き上げることにつながるのでインデックスを恒常的に超えることは難しいのです。小学校のクラス生徒がみんなテストのために努力したら、平均点は上がりますが、全員が平均点を超えることはできません。

1. チャールズ・エリス. 敗者のゲーム[原著第8版] (日本経済新聞出版) (p.5). 日経BP. Kindle 版.

結論、リスク資産は時価総額加重平均型のインデックスファンドを持ちましょう。インデックスファンドは最強の投資家を集めた夢のチームを雇うイメージです。インデックスファンド以外のファンドを買ったり、個人で銘柄を考えて買うことは、プロの運用を超えることを目指していると考えましょう。この行動がいかに難しいかは、アクティブファンドの成績が物語っていますね。

2022年3月現在、日本の大手証券会社が出している時価総額加重平均型のインデックスファンドは例えば以下のものがあります。他にもたくさんありますがどれもインデックスに沿うのでほぼ同じです。どれか1つインデックスファンドを決め、毎月購入しましょう。上でMSCI ワールドインデックス の内訳を見ましたが、世界で時価総額が高い企業は米国ばかりです。そのため、できれば米国株が含まれているとよいでしょう。 (米国オンリーもしくは全世界のインデックスに連動するインデックスファンド)

  • SBI・V・S&P500 インデックス・ファンド
  • SBI・V・全米株式 インデックス・ファンド
  • 楽天・全世界株式 インデックス・ファンド
  • eMAXIS Slim シリーズ

もう少し理論的な背景に踏み込むと、現代ポートフォリオ理論によればインデックスは Sharpe Ratio を最適化したポートフォリオであるため、リスクに対するリターンの効率が最大になります。だからアクティブファンドよりも成績が良くなります。インデックスファンドの有効性や、3章で出てきたリスク資産と無リスク資産の考え方について、もっと詳しく知りたいという方は以下の用語を調べてみてください。この記事は、主に分離定理と効率的フロンティアの考え方を元に書かれています。

  • 現代ポートフォリオ理論 (Modern Portfolio Theory)
  • 効率的市場仮説 (Efficient Market Hypothesis)
  • 平均・分散モデル (Mean-variance analysis)
  • 効率的フロンティア (Efficient Frontier)
  • 分離定理 (Separation Theorem)

  • リスク資産は時価総額加重平均型のインデックスファンドを持つ

5. インデックスファンドの購入とリバランス

これまでの章で、運用方針に関しては決まりました。保有すべき資産は、インデックスファンドと現金の2種類のみです。この章ではどのようにインデックスファンドを購入していけばよいかを解説したいと思います。

ポートフォリオを決め、いざインデックスファンドを買ったとします。しかし、株価は変動するので時間が経つと設定したポートフォリオの比率が崩れていきますね。これに対処するのが「リバランス」であり、資産運用を続けるうえで重要なタスクです。

リバランスとは、株式の価格が上下したことによって当初の割合が崩れてしまったポートフォリオを、元の比率に戻すことを言います。

例えば、以下のように投資を進めたとしましょう。

  1. ポートフォリオをリスク資産 : 無リスク資産 = 5 : 5 とした
  2. 株式を 50 万円分買い、運用スタート (株式 : 現金 = 50万円 : 50万円)
  3. 1年後、株式の価格が 60 万円に上昇 (株式 : 現金 = 60万円 : 50万円)

株式の価格が上昇したことで、ポートフォリオが 5 : 5 ではなくなってしまいました。元の比率に戻すには、株式を 5 万円売ります。株式が – 5 万円、現金が + 5 万円なので 株式 : 現金 = 55万円 : 55万円 となり、ポートフォリオが当初の 5 : 5 に戻ります。逆に現金のほうが比率が大きくなっている場合は、現金で株式を買い増しして比率を戻します。この売買の操作がリバランス (バランスを取りなおす) です。

資産運用をする上でリバランスは避けられないものです。「株価が上昇しているんだからそのまま放っておけばいいじゃん」と思うかもしれません。しかし、ポートフォリオが当初と異なるということは、取るリスクの大きさが異なっていることを意味するので、そのままにするのは危険です。

実際、日々株価は変化するのでポートフォリオがずれるのは仕方がありません。少しずれたからと言って大きな問題になるわけではないし、頻繁に売買しても手数料と税金を取られるだけです。「1年に1度ポートフォリオを見直す日を決め、大きくずれている場合はリバランスをする」くらいがちょうど良いと思います。

リバランスは新たに資金を投入するとき (積み立てるとき) にも行えます。1年に1度の見直しに加え、こちらを実施していきましょう。むしろ積み立てるときのリバランスのほうが、毎月行うので重要なタスクです。リバランスとは、要はポートフォリオがある程度崩れたら直す、ということでした。ならば、毎月積み立てるときにできるだけポートフォリオが崩れないように購入すればよいのです。

例えば以下の状況を想定します。

  • 設定したポートフォリオ → リスク資産 : 無リスク資産 = 5 : 5
  • 現在のポートフォリオ → インデックスファンド : 現金 = 42万円 : 48万円 (計90万円)
  • 今月の積立金額 = 10万円

現在のポートフォリオは、当初のポートフォリオとは異なっています。この場合、ポートフォリオを元の比率にするには、今月の積立金10万円でインデックスファンドをいくら買えばいいのでしょうか。

  • 積み立てた結果の総資産額
    → 90万円 + 10万円 = 100万円
  • 総資産額が設定したポートフォリオ通りになるには
    → インデックスファンド : 現金 = 50万円 : 50 万円
  • 現在のポートフォリオとのずれは
    → インデックスファンド 50万円 – 42万円 = 8万円
    → 現金 50万円 – 48万円 = 2万円

よって、インデックスファンドを8万円分購入し、残り2万円は預貯金として自分の口座に取っておく、が正解です。毎月この手順を行います。

ただ、資産額が大きくなるとどんどん積立金の影響が小さくなります。そのため、毎月の積み立てではリバランスしきることができないかもしれません。その場合は、最初に書いた「1年に1度のリバランス」時に修正します。

  • 毎月リバランスをしながら積み立てる
  • 1年に1度ポートフォリオを見直し、大きくずれている場合はリバランスをする

6. 何年くらい運用すればいいのか

果たして何年くらい運用を続けるべきなのでしょうか。おおざっぱでいいので運用する期間を決めておけば、迷わずに投資することができます。投資期間を考えるうえで役に立つと思われる図を用意しました。

図7. 米国株への投資期間と年率リターンの分布
投資期間投資終了後のリターンがマイナスとなった投資の割合
1年25%
5年15%
10年5%
15年0%
20年0%
25年0%

上図は米国株のインデックス (S&P500) への投資期間と、年率リターンの分布を表した図です。過去50年間において、様々な開始時期、投資期間で投資を行ったときのパフォーマンスを検証した結果です。下記の条件で作成しました。

  • 検証期間は1970年 – 2021年の約50年間
  • 期間内の任意のタイミングで投資を開始
  • 投資期間は1年、5年、10年、15年、20年、25年の6パターン
  • 投資期間中は毎年同じ額を積み立て投資
  • 投資終了後、年率リターン (1年あたりのリターン) を計算し分布にする
  • 年率リターンの平均値 = 緑色マーカー

年率リターンとは、投資期間全体ではなく1年あたりのリターンであり、「○○年でこれだけ増えたけど、1年あたりだとどれくらい増えたの?」という場合に用いられます。

例えば「5年で30%のリターンが出た」という場合なら、年率リターンは
r × r × r × r × r = 1.3
を満たす r を計算します。計算すると r = 1.054 、つまり年率リターンは 5.4 % になります。

さて、図を見てみましょう。10 years (投資期間 10 年) の部分を例に説明します。1970年から2021年の期間中に 1980-1990, 2010-2020 など任意のタイミングで10年間積み立て投資をします。これら異なる投資タイミングにおける年率リターンの分布が箱ひげ図で示されています。

平均値が 5% なので、過去の10年間積み立て投資は、いろんな投資タイミングを平均すると1年あたり 5 %のリターンが出たことを示しています。最大値が 11 %なので、最も良いタイミングで投資を始めた場合の年率リターンは 11 %。最小値は -2.7 % なので、最も悪いタイミングでは -2.7 %のリターンです。

投資期間を長くしても、年率リターンの平均はあまり変わりませんね。しかし、箱ひげ図の縦幅が小さくなっているので、リスクはどんどん小さくなっていくことが分かります。投資期間が1年 (1 year) だと、上手くいけば最大 +35% のリターンが出たものの、最悪の年に投資した場合は -36% のリターンでした。ところが、投資期間が20年 (20 years) だと、最低でも +1.8% の年率リターンが得られ、損はしなかったことが分かります。

右の表は、様々な投資タイミングにおいて、投資終了後のリターンがマイナスになってしまった投資の割合を示しています。投資期間が1年だと、25% (4回に1回) は損をするという、運だめし感がありますね。しかし投資期間が15年を超えるとリターンがマイナスになった割合は 0% になっています。つまり、1970年から2021年の間、どのタイミングで投資を始めても (たとえ投資を始めた1年後にリーマンショックが起きても)、15年間積み立てれば利益は出た、ということを意味しています。

結局、上のグラフは長期で積み立て投資を行えば損をする確率はどんどん小さくなった、ということを示しています。「過去50年間どのタイミングでもいいから15年以上積み立てた場合損はしなかった」という事実は、私たち個人で投資をしている人にとても勇気を与えてくれますね。すぐに現金が必要な場合など、資産運用を辞めなければならない特別な理由がある場合を除いて、できれば20年以上 (というか一生) を見据えて積み立てることをおすすめします。

(上の検証はあくまで過去の市場での検証結果なので、今後も同じ分布になるかどうかは分かりません。例えば100年前の市場で通用した理論を出されても、現在とは技術や産業が違うので多くの人は信じないでしょう。しかし、直近数十年の市場なら、現在の市場と大きく外れることはないと考えられるので、十分参考にできる結果だと思います。)

  • 特別な事情がない限り20年程度は運用することを想定する

7. まとめ

長々と書きましたが、まとめると資産運用の要点は以下の通りです。

  • ポートフォリオはリスク資産 (インデックスファンド) と無リスク資産 (現金) の2種類のみ
  • インデックスファンドと現金の比率の決定 = ポートフォリオの決定
  • リバランスを忘れない
  • 20年以上続けるつもりでやる

冒頭の結論にも書きましたが、資産運用を始めるステップは以下の通りです。

まず、以下の手順でインデックスファンドを購入するための準備をします。

  1. ポートフォリオを決める
    インデックスファンドと現金の比率を決める (3章)
  2. インデックスファンドを1つ決める
    SBI証券や楽天証券などから、米国株が含まれているインデックスファンドを決める (4章)
  3. 証券会社の口座を開く

準備が済んだら、以下の2点をひたすら続けます。

  1. 毎月給与が入ったらインデックスファンドを購入する (5章の内容に従いリバランスしながら購入する)
  2. 1年に1度ポートフォリオを見直し、リバランスが必要なら行う

積立NISAなどの制度は使えるだけ使います。積立NISAを行ったとしても、上記の手順は変わりません。慣れてきたら、毎月の売買にかける時間は30分程度で済むはずです。こうなったら資産運用は暇なものですから、別なことに時間を使っていきましょう。

追記

その他注意点などを書いていこうと思います。

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