
タイトル : 図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書
著者 : 小宮一慶
出版社 : PHP研究所
発売日 : 2018年1月23日
オススメ度 : ★★☆☆☆
どんな本か
端的に言うと、インデックスファンドによる投資ではなく、優良そうな企業を探し個別株を買うアクティブ運用をする人向けの本です。
第1章 経済分析
日本、アメリカ、中国におけるGDPや中央銀行の金利から、経済状況を分析しています。貿易収支、貯蓄率、住宅価格、などを見て経済状況を把握し、株の買いどきを探そうという内容が書かれています。
第2章 企業分析
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の見方を、実際の企業の計算書を見ながら解説しています。同時に、自己資本比率や配当性向、ROEなどの指標についても説明されています。
第3章 株価分析
企業の株価が割安なのか割高なのかを判断するために、PER (株価収益率) 、PBR (株価純資産倍率) について説明されています。また、これまでに登場した指標において、筆者が投資に値すると判断する基準 (自己資本比率20%以上、PERは20以下、など) を満たす企業が紹介されています。
第4章 投資信託
リターン、リスク、信託報酬などの観点から、良い投資信託を見つける方法について記述されている章です。アクティブ運用、パッシブ運用、ETFの概要などに触れています。
良い点
- 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の解説
第2章における企業の財務諸表の解説は、実在する企業の貸借対照表に丸で書き込みがあったり、デフォルメされた図があったりしてとても分かりやすいです。財務諸表について解説されている本は他にもたくさんありますが、本書の内容を押さえておけば企業の経営状態を把握するには十分だろうと思います。
- 指標の説明だけでなく個別の企業に対して調査している
紹介した投資指標について、筆者が投資に値すると判断する基準を満たす実際の企業が紹介されています。
残念な点
- 投資指標の基準が謎
例えば「私のPBRの基準値は2倍以下です。」と書いてありますが、なぜ2倍以下が良いと言えるのか全く分かりません。最近はYahooファイナンスなどを使えば個人でも各企業の投資指標は分かるので、せめてPBRの基準値が2倍以下のときに購入した株価のリターンの統計を調べて欲しいと思いました。基準の妥当性が分からないので、それを満たす個別株が優良かどうかも分かりません。
また、「PBRは、1株当たりの純資産が株価の何倍かを表す指標」とありますが、分子と分母が逆だと思います。
- 第1章の内容が後半とつながらない
第1章で経済の分析を行いましたが、それが投資の判断に生きていることが分かりませんでした。第3章でトヨタ自動車などの特定の企業について投資の判断がされていますが、結局、財務諸表のみに基づいて判断しているように見えます。
- 投資信託の解説は浅い
投資信託の説明は財務諸表の解説と比べると急に基礎的になります。例えば、”アクティブ運用はパッシブ運用よりリターンが高いことがあるかもね” という意味のことが書かれていますが、そりゃそうだろう、という感じ。この辺も統計的な知見が示されないと、何が良くて何が悪いのやら分かりっこありません。投資信託については他の書籍やブログ、YouTubeの動画をあさったほうが良いと思います。
まとめ
本書を読むうえで大事なことは、インデックスファンド (パッシブ運用) ではなくアクティブ運用に関する本だということです。インデックスファンドを積み立てている人にとっては1ミリも気にしていない財務諸表の見方などがわんさか載っています。
インデックスファンドは個別株の良し悪しを気にする必要もなく、統計的にはアクティブ運用よりもリターンが高いことが多いです。実際、本書では2018年1月時点で筆者の投資基準を満たす企業が紹介されていますが、それらを買うよりも日経平均のインデックスファンドを買った方がリターンは高くなっています。
しかし、インデックスファンドが良い成績を出すには、本書のような分析を行っているアクティブ運用の存在が不可欠です。誰しもがインデックスファンドに頼り、”ただ飯” (フリーランチ) を食べるようになると、市場は健全でなくなるでしょう。
本書は、細かいことは気にせずにアクティブ運用の手法の1つとして、見てみると面白いと思います。また、インデックスファンドしかやらない人でも、財務諸表について興味があれば読んでみるとよいでしょう。