書評「世界を見てきた投資のプロが新入社員にこっそり教えている驚くほどシンプルで一生使える投資の極意」

タイトル : 世界を見てきた投資のプロが新入社員にこっそり教えている驚くほどシンプルで一生使える投資の極意
著者 : 加藤航介
出版社 : 東洋経済新報社
発売日 : 2020年6月26日
オススメ度 : ★★★★☆

先日、こちらの本を読んだので皆さんに紹介したいと思います。この本は、そもそも投資とは何か、社会にどういう効果があるのか、どのような考え方で実行すればいいのかということを解説してくれています。金銭的な意味での投資だけではなく、人や社会を豊かにするための投資という考え方が紹介されており、面白いポイントでした。

この本のポイント

1. 人的資産を考慮して投資をしよう

人的資産とは自分自身の金銭的価値を評価する考え方であり、将来どれくらいのお金を稼ぐ価値があるのかを示す。例えば年収が 500 万円で今後元気に20年働くとすれば、その人は将来的に1億円稼ぐ価値がある人、と言える。(昇給すれば当然もっと高くなる。)

自分の所得を表す人的資産と、預貯金や株式などの金融資産、2つの資産を持っているということを意識しよう。

人的資産と金融資産を合わせて日本と海外のバランスを取るべき。日本で働いていて円で給与をもらっている状態、つまり人的資産が日本100%なら、金融資産は海外に投資してバランスを取ろう。日本 : 海外のバランスは 50% : 50% を目指そう。

人的資産と金融資産を合わせて安定と成長のバランスを取るべき。日本で働いている人は、日本の安定した雇用に守られている。この場合、人的資産は100%安全資産と考えることができるため、金融資産は成長資産を買うべき。安定 : 成長のバランスは 50% : 50% を目指そう。

金融資産より人的資産の投資に力を入れた方がよい。株式投資を頑張るより、資格の勉強や転職をしてスキルアップし、人的資産を高めたほうが効率が良い。

2. すべての権力者は「モニタリング」されるべき

社会をより良くするには、影響力が強い人へのモニタリングが必要である。例えば民主主義という仕組みは、大きな権力を持つ政治家を選挙という手段でみんなでモニタリングする。株式投資も同様で、株の売買や株主総会によって大企業の経営者をモニタリングしている。

経済界の権力者をモニタリングする仕組みが、株式上場という制度が存在する近代以降の株式投資の本質的な役割である。日本は選挙の意識が低く株式投資の慣習もないため、うまく社会参加できていない人が多い。そのため、モニタリングが厳しい欧米に比べて株式のリターンが小さい。

今後は貯蓄ではなく資産形成 (投資) を積極的に行い、日本をより豊かにしようという考えが日本人に必要である。

3. 正しい投資のステップ

ステップ1: 「真の自己資産」(人的資産 + 金融資産) と、そのバランスを把握する
ステップ2: 2つのバランスを意識しながら投資を実行する
ステップ3: 1年に1度、見直しを行う

自分が将来どれくらい稼げるか計算し、自分の人的資産を大まかに把握しよう。人的資産 + 金融資産は、世界中に分散させ、安定した資産と成長する資産を混ぜるとよい。

例えば、
自分は日本で生まれ育ち、英語が堪能ではないから日本法人以外で働くことはできない → 人的資産は100%日本
日本は雇用が安定しており、今後も働き続ける可能性が高い → 人的資産は100%安全資産
人的資産が日本、安全に偏っているため、金融資産は海外、成長重視の資産を持つことにする。今後は、海外の株式を買っていく。

目指す割合は、日本 : 海外 = 50%: 50% 、安定 : 成長 = 50%: 50% である。

書評

この本は、著者が新入社員と対話をしながら投資について解説をするような本になっています。単に株式投資について解説している本ではなく、投資の考え方や社会のあり方など、かなり大きな枠組から話を進めています。そのため、選挙や投資を通じて社会に参加することの意味が分かり、ためになります。

人的資産の考え方が書籍の始めのほうに書いてあり、著者が重要だと意識していることが伺えます。自分も、人的資産という考え方は株式投資だけに関わらず、自分の価値を高める意識を持つためにも大事だと思っています。株式投資を始めて金融資産が大きくなると、人的資産への投資のモチベーションが下がることがあります。「頑張って働かなくても株で儲ければいいや」となるわけです。

しかし、株式投資による資産運用はあくまで寝ているお金を働かせているだけです。人的資産に投資し、自分自身の価値を高めたほうが豊かな生活に結びつくと思います。多くの本は「人的資産を含めて株式投資しろ」と言うだけにとどまっている気がしますが、この本はどちらが本質的に大事かを指摘しており、良いポイントです。

その他にも、金融商品の説明やファンドの選び方の解説が丁寧にされています。ただし、特定の銘柄を紹介したり、投資戦略を提案したりしている本ではありません。投資の具体的な方法ではなく、そもそもの考え方を解説する内容になっています。

全体的に抽象度が高いため、具体的なアクションにはつながりにくいです。例えば、多くの若い日本人はこの本に従うと、人的資産が日本円で数億円と試算されます。50% : 50%のバランスを取ろうとすると、金融資産として海外株式を同じ額だけ持つことになるのですが、人的資産が大きすぎてバランスの取りようがありません。

著者もなぜ 50% : 50% なのかということには触れていないので、分かりやすい指標を示しているだけなのだと思います。日本に偏った資産形成をするなというメッセージだけ受け取るのが良さそうですね。ここには完全に同意します。

まず、投資なんてやったことがない、考え方もよく分からないという方にはとてもオススメです。投資の経験がある方でも、考え方を見直せると思うので一読の価値があります。

以上です。読んでくださりありがとうございました。

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