
皆さんはWealthNavi(ウェルスナビ)のロボアドバイザーというサービスをご存知でしょうか。ユーザーが資金を預ければ、手数料と引き換えにAIが自動で資産運用をしてくれるサービスです。投資の経験や知識がなくても始められ、手続きも簡単なため近年人気が高まっているようです。
自分も1年前の2020年7月末にウェルスナビに10万円投資しました。(もともと長期で続ける気はなかったので最低金額の10万円を入れて様子を見ていました。)
ウェルスナビのサービスを考察すると、長期運用を考えると自分で運用したほうが得なのではということに気が付いたので解説していきたいと思います。
この記事は、これから投資を始めようと思っている方、ウェルスナビを検討している方、すでにウェルスナビにお金を突っ込んだけど運用方法を見直している方に向けて書いています。
Contents
1. ウェルスナビってどんなサービス?

サービス概要
ウェルスナビ株式会社とはどんなサービスを提供している企業なのでしょうか。ウェブサイトを調べてみましょう。
よくある質問ページに「WealthNaviとはどういうサービスですか?」という項目がありました。
WealthNaviとはどういうサービスですか?
「WealthNavi(ウェルスナビ)」は、ノーベル賞受賞者が提唱した理論に基づいた「長期・積立・分散」の資産運用を全自動で行うサービスで、高度な知識や手間なしに国際分散投資を行うことができます。
働く世代に手軽に資産運用を行っていただくことで、10年、20年といった長期的視点での資産形成をサポートします。
「お金を預けてくれれば長期の資産運用を自動でやってあげるよ」ということですね。
”ノーベル賞受賞者が提唱した理論”というのがよく分からなかったので(そもそも誰?)ページ下にあるリンクから「WealthNaviの資産運用アルゴリズム」というPDFを見てみます。すると以下のような記述がありました。
I. 資産クラス全体に連動 :パッシブ(インデックス)投資
1990年にマーコビッツ氏とともにノーベル賞を受賞したウィリアム・シャープ氏の資本資産価格モデル( CAPM )により、ある市場に投資する際の最も効率的な方法は、市場の全銘柄に時価総額の割合で投資することであると示されました。WealthNavi では、原則として各資産クラスがカバーする市場の全体的な動向を示すパッシブ(時価総額加重)型インデックスに連動する ETF のみを投資対象とし、アクティブ型やスマートベータ型、セクター別 、レバレッジ型、インバース型などは対象外としています。
要点をまとめると以下の2点です。
- CAPM(キャップエム)というモデルによって時価総額加重のインデックスファンドに投資するのが効率的だと分かった。
- よって我々は時価総額加重のインデックスファンドだけで運用するよ。
やたらノーベル賞押しですが 1. のCAPMに着目する必要はなく、重要なのは 2. 時価総額加重のインデックスファンドだけで運用するという点です。ここは安心できるポイントですね。
手数料
手数料については以下のように記載されています。
4.明瞭な手数料、資産運用アルゴリズムもホワイトペーパーで公開
手数料は預かり資産の1%(現金部分を除く、年率、税込1.1%※)のみ。また、資産運用アルゴリズムをホワイトぺーパーで公開しており、ホームページ上でどなたでもご覧いただけます。
※預かり資産が3000万円を超える部分は0.5%(現金部分を除く、年率、税込0.55%)の割引手数料が適用
いわゆる信託報酬というやつで、1年間に自分の資産の1.1%を手数料として払います。例えば10万円預けた場合、年間の手数料は1,100円です。
実際には、年間の手数料は毎月計算され、12で割った金額をその月に支払うようです。株価の変動によって評価額(資産額)が変わった場合、手数料も増減します。例えば評価額が先月は¥100,000円でも今月¥105,000円になったら、今月支払う手数料は少し増えるわけです。
サービスを利用している人は、ウェブサイトもしくはスマホアプリで自分がウェルスナビにいくら手数料を支払っているかが分かります。

「なんだ、年間1.1%だけ払えばいいのか」と思うかもしれませんが、一般的なETFの信託報酬はどのくらいなのでしょうか。
例えば、バンガード社が提供している米国市場全体に投資できる人気のETF「VTI」の信託報酬は0.03%です。後で解説しますが、1.1%と0.03%では、長期で運用する場合は複利の効果でとても大きな差になります。
次にウェルスナビのポートフォリオを見てみましょう。
2. どのような運用をしているのか
ウェルスナビの投資対象は以下の7つの銘柄です。バンガード社の株で全世界に投資しつつ、債券や金を持つという堅実なスタイルだと思います。

7つの銘柄をどのくらい持つのか、といういわゆるポートフォリオはユーザの「リスク許容度」によって変わります。
リスク許容度とは「どのくらいまでなら資産価格が落ちても経済的、精神的に耐えられるか」を表す指標です。リスク許容度によって投資スタイルは大体以下のように決まります。
- リスク許容度が低い=ローリスクローリターンな投資をする。株を持つけど、債券や金、現金が多め。
- リスク許容度が高い=ハイリスクハイリターンな投資をする。株ブッパ。債券などは少しだけ持つ。
一般的に年齢が若く、年収が高い人はリスク許容度が高いと言えます。たとえ価格が落ちてもこれから長く働くので稼ぐ力が強いからです。逆に定年退職した人など、収入に期待ができない場合はリスク許容度は小さくしないと危険です。あとは、その人の精神的なタフさや投資経験などによって変わります。
ウェルスナビでは、リスク許容度は1~5の5段階に分けられており、1がローリスクローリターン、5がハイリスクハイリターンです。サービスを開始するときに年齢はいくつか、年収はいくらか、株価が急落したときにどう対応するか、などの質問に答え、その回答によってリスク許容度が自動で決まります。
(自分は何としてもリスク許容度を5にしたかったのでかなり強気な回答をしました。)
さて、リスク許容度が決まるとポートフォリオが以下の図のように決まります。

リスク許容度とポートフォリオの関係を示す図を拝借しました。リスク許容度が高くなるにつれ(図の右側に行くにつれ)株の割合が多くなっていますね。リスク許容度が1の場合は23%ですが、リスク許容度が5の場合は84.5%まで増えています。
細かい数字はどうでもよいので、「リスク許容度が高いと株の割合が多い」ということだけ覚えておきましょう。
3. 実際の運用内容を見る
講釈を垂れるのはやめて、具体的なイメージをつかむために実際に運用がどうなっていたのか確かめてみましょう。
2020年7月27日に投資した10万円は、2021年9月4日現在以下のようになっていました。

まず、評価額は ¥100,000 → ¥135,105 なので35,105円(約35%)のリターンです。通常、株式投資の年利が7%程度であることを考えると、2020年はとんでもないリターンをたたき出したことが分かります。ぶっちゃけ何を買っても上がったんでしょう。
各銘柄の損益は次の通りです。
銘柄 | 評価額 | 損益額 | 損益率 |
---|---|---|---|
米国株 (VTI) | ¥47,187 | ¥15,592 | +49.35% |
日欧株 (VEA) | ¥44,790 | ¥11,895 | +36.16% |
新興国株 (VWO) | ¥21,617 | ¥4,025 | +22.88% |
米国債券 (AGG) | ¥6,452 | ¥87 | +1.37% |
金 (GLD) | ¥7,295 | ¥-85 | -1.15% |
不動産 (IYR) | ¥6,843 | ¥2,153 | +45.91% |
現金 | ¥921 | – | – |
米国株 (VTI) が約+50%のリターンを出しており、たまげたなあ・・・という感じです。米国市場以外の日欧株、新興国株も十分高いリターンを出していることが分かります。
4. ウェルスナビの資産運用に対する疑問
ここまで、ウェルスナビのETFを主軸とした投資スタイルを見てきましたが、こう思いませんか?
ん、これ自分でETFを買うのと何が違うんだ・・・?
ポートフォリオに含まれているETF7つは全部SBI証券や楽天証券で買えるものです。自分でポートフォリオ通りの割合でETFを買っても、投資としてはまったく同じことです。
自分で運用した場合との違い – 高い手数料
自力でやった場合と異なる点は、主に以下の4点です。
ウェルスナビは
1. 手数料が高い(年1.1%)
2. リバランスを自動でしてくれる
3. ポートフォリオが自動で更新される
1 年ごとに最新の市場データによってポートフォリオを更新するそうです。リスク許容度も再診断されます。
4. 少額でETFが買える
通常ETFは金額指定ではなく個数指定でしか買えません。これは個人で購入する場合困ることがあります。例えば5万円投資したいのにETFが1個当たり3万円だとすると、1個では資金が余るし、2個は買えない、ということが起こります。ウェルスナビは内部で少額取引できるらしく、ほぼ金額通りに買えます。
結局、1.の手数料によって、2.3.4.の恩恵を受けていると考えられそうです。
まず、手数料が運用益に与える影響が気になりますよね。実際すでにいくつも検証しているブログや動画がありますが、ここでも簡単に確認してみましょう。
ウェルスナビのポートフォリオに含まれる7つのETFを自分で購入した場合、ポートフォリオ全体にかかる経費率 (信託報酬) は約0.11%です。 (リスク許容度5のとき。各銘柄の経費率と保有割合の積和。)
単純化のために、自分で運用した場合の信託報酬を0.1%、ウェルスナビに預けた場合の信託報酬を1%として比較します。20年前に100万円をVTIに投資したと仮定して、信託報酬が0.1%の場合と1%の場合に評価額がどうなるか計算してみました。

ブルーが信託報酬 0.1%、オレンジが信託報酬 1%の場合の評価額の推移を表しています。
5年程度の運用では評価額に大きな違いは生まれません。しかし、20年間運用するとブルーとオレンジでは1.2倍(385万円 × 1.2 = 約461万円)もの差が出ることが分かります。かなり大きいですね。この差は運用期間が長いほど大きくなります。
長期で運用するためにウェルスナビにお金をつっこんでいるはずなのに、長期でやると痛手を被るという、なんとも悲しい話です。
自分の手で運用しよう
では、1.の手数料を払うだけのうまみが2.3.4.にあるのかというと、ないと思います。少しの手間はかかりますが、2.3.4.は私たち一般人でも対応できるからです。それぞれ考えてみましょう。
2. リバランスを自動でしてくれる について
リバランスをしないという選択肢はありえないので、絶対やることになります。しかし、リバランスは年に1回やる程度で手間にはならないし、やり方もインターネットで調べればたくさん出てきます。好調な銘柄を売って、そのお金で評価額が下がっている銘柄を買えば基本的にOKです。また、毎月積み立てるときに評価額が下がっている銘柄を多めに買っていれば、勝手にリバランスしているも同然です。
3. ポートフォリオが自動で更新される について
ポートフォリオを更新するというのは、保有する銘柄の割合を変えるということです。ポートフォリオはリスク許容度によって決まると上で述べました。そしてリスク許容度はおおよそ年齢によって決まると考えると、ポートフォリオは自身のライフステージによって更新されるべき、ということになります。
結局、ポートフォリオの更新は何十年という長いスパンで行うし、杓子定規にやれるものでもありません。通念として言えることはせいぜい「年齢が高くなるにつれて株の比率を下げたほうがいい」程度です。ウェルスナビの質問にいくつか答えたくらいで決められるポートフォリオより、自分の状況を考えて決めたポートフォリオのほうが自身が納得できると思います。
あまり考えすぎず、自分が不安にならない程度に株の比率(リスク許容度)を決めましょう。(100ー自分の年齢)%を株にするという指標もあります。個人的には、若いときは株が8割くらいあってもOKだと思っています。60歳のときは5割程度といったところでしょうか。
余談ですが、ライフサイクル投資術と呼ばれる考え方によると、若いときはレバレッジをかけて株を200%くらい所持するのが良いようです。残念ながらここでは解説しきれませんが、「ライフサイクル投資術 お金に困らない人生をおくる」という書籍が出版されているので興味がある方は読んでみてください。(2021年9月現在、書籍になっているのはこれだけみたいです。)
4. 少額でETFが買える について
ETFは数万円程度するので、ETFを買いたくても金額通りに買えないことはあると思います。そのときは投資金額を翌月に繰り越せば問題ないでしょう。つまり、ある程度資金が溜まったら(例えば15万円など)購入すればいいのです。長期で運用するなら投資が1、2か月先になっても影響はないはずです。
また、2.3.4.は自分でやっても改善される余地がありますが、手数料は変えられるものではありません。手数料は自分の力ではコントロールすることができない、忌むべき「絶対リターン下げるマン」なのです。
結局、自分でポートフォリオを決め(ウェルスナビのポートフォリオでも可)その通りにSBI証券や楽天証券でETFを買い続けた方が勉強になるし、儲かります。最初は手間取るし間違えることも多いと思いますが、最初なら額も小さいので人生が終わるような痛手を被ることはないと思います。やっていくうちに必ず慣れていきます。
5. まとめ
この記事では、ウェルスナビのサービスを紹介しました。運用が自動化されている点は魅力的ですが、手数料を考えると自分で運用した方が長期的には儲かりそうなことが分かりました。
次回は、ウェルスナビのポートフォリオを元に新しいポートフォリオをいくつか作り、検証していきます。